機能性ディスペプシア
「胃の調子が悪いのに、検査では『異常なし』と言われた」
「いつまでも続く胃もたれや痛み、本当は怖い病気ではないか不安」
このような悩みをお持ちの方は少なくありません。胃の機能そのものに問題がある「機能性ディスペプシア」は、現代人において非常に頻度の高い疾患です。当院では、患者様の「つらさ」に寄り添い、適切な診断と治療を行います。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、慢性胃炎など殆どの胃の病気が、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が原因であることが判明していらい、ピロリ菌感染がないにもかかわらず、胃の症状を有する病態が改めて注目されています。機能性ディスペプシアは、胃カメラなどの検査で明らかな異常が見つからないにもかかわらず、胃もたれ、みぞおちの痛み、すぐお腹いっぱいになる感じなどが続く病気です。
こんな症状はありませんか
- 食後に胃が重く、なかなかすっきりしない
- 少し食べただけですぐ満腹になる
- みぞおちが痛む、焼けるように感じる
- 胃カメラでは異常なしと言われたが、症状が続く
- ストレスが強い時に悪化しやすい
- 食欲が落ち、食事がつらい
機能性ディスペプシアとは
「症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないにもかかわらず、慢性的に心窩部(しんかぶ)痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」と定義(機能性消化管疾患診療ガイドライン2014-機能性ディスペプシア)されています。
また、国際的には下記のように定義されています。
必須条件
1. 以下の症状が 1 つ以上あること
a. つらいと感じる食後のもたれ感
b. 早期飽満感
c. 心窩部痛
d. 心窩部灼熱感
および
2. 症状の原因となりそうな器質的疾患(上部内視鏡検査を含む)が確認されない6か月以上前から症状があり、最近3か月は上記の基準を満たしていること。
国際基準では「6か月以上前から症状があり、最近3ヵ月は上記の基準を満たしていること」という期間の基準がありますが、医療機関に簡単に受診できるわが国では期間は考慮しないことになっています。
要するに、胃潰瘍、胃がん、ピロリ菌感染性胃炎(慢性胃炎)などの器質的な病気もなく、膠原病などの全身性疾患(部分症状として胃症状を伴うことがあります)がない、また糖尿病などの代謝性疾患(部分症状として胃症状を伴うことがあります)がないにもかかわらず、心窩部痛(みぞおちの痛み、胃痛)、みぞおちの灼熱感(焼けるような感じ)、食後もたれ感、食後早期の満腹感などの症状を有する場合を機能性ディスペプシアと診断します。
すなわち検査で胃に異常が見つからないのに、つらい胃もたれや胃痛等が続く状態を機能性ディスペプシアといいます。
機能性ディスペプシアには胸やけなどの胃食道逆流症は含めないことになっています。
日本人の有病率は健診受診者の11%~17%、上腹部症状を訴えて病院を受診した人の45%~53%といわれていますので、決して稀な病気ではありません。
ディスペプシアとはギリシア語の消化不良を意味する言葉で、これまでは広く様々な腹部症状に対して使用されてきたあいまいな用語ですが、今回新に決められた機能性ディスペプシアは、胃・十二指腸の症状に限定することになっています。
機能性ディスペプシアの原因
ストレスや生活習慣の乱れによって胃の働きを調節する自律神経のバランスが崩れ、胃の運動機能異常、内臓の知覚過敏を来たして発症する場合が多く、その他に、急性胃腸炎のあと、幼少期や思春期に受けた虐待、遺伝的要因など下記の原因が考えられています。
- 胃運動機能異常(適応性弛緩不全、排出能低下)
- 知覚過敏(伸展、酸、温度)
- ストレス
- 生活習慣(タバコ、アルコール、不眠、高脂肪食)
- 急性胃腸炎後
- 幼少期・思春期のつらい体験
- 遺伝的要因
胃の中に食物が入ってくると胃内圧を上昇させることなく、胃の上部が拡張して(弛緩して)食物が貯えられます(これを胃の適応性弛緩といいます)。次
いで胃の出口(前庭部)に送られ収縮が起こり、少しずつ十二指腸に送られます。
機能性ディスペプシアの人はこの胃の上部の弛緩と前庭部の収縮がうまくいかなくなって食物の十二指腸への排出が遅延するため、食後すぐ満腹になったり、胃もたれ、胃が重いなどの症状を起こします。
また機能性ディスペプシアの人は胃の伸展、酸や温度刺激に対する知覚過敏や、十二指腸への酸や脂肪などの注入による知覚過敏を示す人がみられます。このような人は、みぞおちの痛み、みぞおちの焼けるような感じを訴えます。
十二指腸の胃酸に対する知覚過敏があると、胃の収縮運動や胃上部の適応性弛緩がうまくいかないといわれています。急性胃腸炎後に機能性ディスペプシアをおこすことが知られていますが、これは十二指腸を中心に慢性炎症が残り、十二指腸の知覚過敏がおこるためと考えられています。
不安・不快ストレスは胃の適応性弛緩が十分起らず、また知覚過敏も起こします。
タバコ、アルコール、不眠は機能性ディスペプシアの発症や症状増悪に関与し、高脂肪食は症状を悪化させます。
機能性ディスペプシアの症状
食後のもたれ感:食べ物がいつまでも胃の中にとどまっているような不快感があり、普通量の食事を摂っても後がつらいと感じる。いつまでもお腹が空かな
いと感じる。
早期飽満感:食事を開始してすぐに、食べ物で胃がいっぱいになり、それ以上食べられなくなる感じ(普通量の食事が食べられない感じ)。
みぞおちの痛み:みぞおちに起るつらい不快な痛み。
みぞおちの灼熱感:みぞおちに起る熱をもったような、焼けるような不快な感じ。
治療法を決めるにあたって、これらの症状を次のように二つに分けて考えると判りやすいです。胃もたれ、胃が重い、お腹がはる、すぐに満腹になる、食欲不振などの症状は食後愁訴症候群とよばれ、みぞおちの痛み(胃痛)、みぞおちの焼けるような感じなどは心窩部痛症候群とよばれます。
しかし実際には、症状が重なりあっていることもしばしばです。
また時間とともに症状が変化することもあります。たとえば最初はみぞおちの痛み、胃もたれ、食欲不振があり、なかでもみぞおちの痛みが最も強く感じていたものが、次の週には、みぞおちの痛みはやわらぎ、胃もたれが強く感じるようになり、食欲もなくなる。しばらくするとみぞおちの灼熱感を強く感じるという具合に症状が変化することもあります。
機能性ディスペプシアの診断
胃・十二指腸潰瘍や、ヘリコバクター・ピロリ菌感染胃炎、急性胃炎、胃がん、逆流性食道炎、などがないかを鑑別する必要があるため上部内視鏡検査が必要です。器質的な病気を認めない場合には、症状とあわせて機能性ディスペプシアの診断を行います。
器質的な病気がみつかれば、その病気の治療を優先します。
また必要に応じて、胆石症、慢性膵炎、膵臓がんや他の部位のがんなどを除外するために腹部エコー、血液検査が必要な場合もあります。
機能性ディスペプシアの治療
機能性ディスペプシアは、検査で大きな異常が見つからないため周囲に理解されにくいことがあります。しかし、胃の動きの乱れや胃・十二指腸の知覚過敏、ストレスなどが関与することが知られており、決して『気のせい』ではありません。
日常生活で気をつけること
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食事: 早食いを避け、よく噛んで食べる。高脂肪食や刺激物を控える。
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睡眠: 規則正しい睡眠をとり、自律神経を整える。
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ストレス管理: 散歩や趣味の時間など、リラックスできる時間を作る。 些細なことと思われるかもしれませんが、これらの積み重ねが「胃の動かし方」を正常に戻す助けとなります。心理社会的因子の関与が疑われる場合は専門的な心理療法が必要です。
- タバコやアルコール:禁煙、節酒など生活習慣の見直しも大切です。
薬物治療
胃もたれや、膨満感などの食後愁訴症候群には消化管運動機能改善薬が、胃の痛みやみぞおちの焼けるような感じなどの心窩部痛症候群には胃酸分泌抑制薬が用いられます。必要に応じて、抗うつ薬・抗不安薬、漢方薬などが使用されます(図6)。
消化管運動機能改善薬には、機能性ディスペプシアに唯一適応のあるアコファイド(アコチアミド塩酸塩水和物)があります。アコファイドは胃の拡張能(適応性弛緩)と排出能の両方に効果が確認された薬剤です。
その他従来からある消化管運動機能改善薬の、プリンペラン(メトクロプラミド)、ナウゼリン(ドンペリドン)、ガナトン(イトプリド)、ガスモチン(モサプリド)なども使用されます。
胃酸分泌抑制薬には、PPI(プロトンポンプ阻害薬)やH2受容体拮抗薬が用いられます。
ストレスなどによって、うつ症状や不安症状も見られる場合も少なからず見られますが、その様な場合は抗うつ薬や抗不安薬を用います。
漢方薬の、六君子湯、半夏瀉心湯、安中散、半夏厚朴湯なども有用な治療薬です。
こんなときは早めの受診をおすすめします
次のような場合は、機能性ディスペプシアだけでなく他の病気が隠れていないか確認が必要です。早めの受診をおすすめします。
- 症状が長引く、または悪化している
- 体重減少がある
- 繰り返し吐く
- 黒い便が出る、吐血した
- 貧血を指摘された
- 食事がほとんど取れない
- 50歳以上で新たに症状が出てきた
- 胃がんや消化管疾患の家族歴がある
当院での診療
当院では、まず症状の経過や食事との関係、ストレスや睡眠の状況、服用中のお薬などを丁寧に確認します。必要に応じて胃カメラ、腹部エコー、血液検査を行い、胃潰瘍・胃がん・逆流性食道炎・胆のうや膵臓の病気など、他の病気が隠れていないかを調べます。
そのうえで、症状のタイプに応じて胃の動きを整える薬、胃酸を抑える薬、漢方薬などを組み合わせ、生活習慣の見直しも含めて治療方針をご提案します。
よくある質問
Q. 胃カメラを受ける必要はありますか?
A. 機能性ディスペプシアの診断において最も重要なのは、胃がん、食道がん、胃・十二指腸潰瘍といった「目に見える病気」が隠れていないかを確認することです。
「異常がない」ことを確認することは、消去法で適切な治療法(胃の動きを改善する薬や漢方など)を選択するための、前向きな第一歩です。当院では苦痛の少ない内視鏡検査を通じて、確実な診断をお約束します。
Q. 胃カメラで異常がなければ心配いりませんか?
A. 重い病気が見つからなかったという意味で安心材料になりますが、症状が強い場合は機能性ディスペプシアの可能性があります。症状に応じた治療で改善を目指せます。
Q. ストレスだけが原因ですか?
A. ストレスは一因ですが、それだけではありません。胃の動きの低下や知覚過敏、生活習慣など複数の要因が関わります。
Q. 市販薬で様子を見てもよいですか?
A. 一時的に改善することはありますが、症状が続く場合や繰り返す場合は、他の病気が隠れていないか確認することが大切です。
参考文献
日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン2021 ― 機能性ディスペプシア(FD)(改訂第2版)
ACG/CAG Clinical Guideline: Management of Dyspepsia
UEG/ESNM Consensus on Functional Dyspepsia
British Society of Gastroenterology guideline on functional dyspepsia
この記事の執筆者
理事長・院長 永田 浩一
略歴
1996年 国立群馬大学医学部医学科卒業
1996年-2001年 東京女子医科大学 附属第二病院(現 足立医療センター) 外科
2001年-2007年 昭和大学 横浜市北部病院 消化器センター
2007年-2011年 ハーバード大学 医学部 放射線科
2011年-2014年 亀田メディカルセンター 消化器科・放射線科 部長
2014年-2015年 NTT東日本伊豆病院 健診センター 特任部長
2015年-2019年 国立がん研究センター 検診研究部 検診評価研究室長
2018年4月-現在 国立がん研究センター 中央病院 検診センター (併任)
2019年4月-2026年3月 福島県立医科大学 消化器内科学講座 特任教授
資格
消化器内視鏡認定医・専門医・指導医
消化器病専門医・指導医
消化器がん検診総合認定医・消化器がん検診指導医
外科認定医・認定登録医
胃腸科専門医
難病指定医
便通マネージメントドクター
アメリカ消化器内視鏡学会(American Society for Gastrointestinal Endoscopy) 国際会員
アメリカ消化器病学会(American College of Gastroenterology) 国際会員
医学博士(昭和大学):学位論文
Polyethylene glycol solution (PEG) plus contrast-medium vs. PEG alone preparation for CT colonography and conventional colonoscopy in preoperative colorectal cancer staging. Int J Colorectal Dis 2007; 22: 69-76.
学会役員やジャーナルの役職など
Honorary Editors-In-Chief (International Journal of Radiology), Editorial Board Member (World Journal of Gastroenterology, World Journal of Radiology, World Journal of Gastrointestinal Endoscopyなど7英文誌)
日本消化器内視鏡学会 関東支部評議員
消化管先進画像診断研究会(GAIA) 代表世話人
元 日本消化器がん検診学会 代議員
日本消化器がん検診学会 大腸CT検査技師認定委員会 副委員長
日本消化器がん検診学会 教育・研修委員会委員
日本消化器がん検診学会 編集委員会 用語集改訂小委員会委員
日本大腸検査学会 評議員
