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機能性ディスペプシア

胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、慢性胃炎など殆どの胃の病気が、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が原因であることが判明していらい、ピロリ菌感染がないにもかかわらず、胃の症状を有する病態が改めて注目されています。胃に器質的疾患がないにもかかわらず、胃症状を有する場合を「機能性ディスペプシア」と呼びます。

【機能性ディスペプシアとは】

「症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないにもかかわらず、慢性的に心窩部(しんかぶ)痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」と定義(機能性消化管疾患診療ガイドライン2014-機能性ディスペプシア)されています。

また、国際的には下記のように定義されています。

必須条件

1. 以下の症状が 1 つ以上あること

a. つらいと感じる食後のもたれ感
b. 早期飽満感
c. 心窩部痛
d. 心窩部灼熱感

および

2. 症状の原因となりそうな器質的疾患(上部内視鏡検査を含む)が確認されない6か月以上前から症状があり、最近3か月は上記の基準を満たしていること。

 国際基準では「6か月以上前から症状があり、最近3ヵ月は上記の基準を満たしていること」という期間の基準がありますが、医療機関に簡単に受診できるわが国では期間は考慮しないことになっています。

 要するに、胃潰瘍、胃がん、ピロリ菌感染性胃炎(慢性胃炎)などの器質的な病気もなく、膠原病などの全身性疾患(部分症状として胃症状を伴うことがあります)がない、また糖尿病などの代謝性疾患(部分症状として胃症状を伴うことがあります)がないにもかかわらず、心窩部痛(みぞおちの痛み、胃痛)、みぞおちの灼熱感(焼けるような感じ)、食後もたれ感、食後早期の満腹感などの症状を有する場合を機能性ディスペプシアと診断します。

 すなわち検査で胃に異常が見つからないのに、つらい胃もたれや胃痛等が続く状態を機能性ディスペプシアといいます。
 機能性ディスペプシアには胸やけなどの胃食道逆流症は含めないことになっています。

 日本人の有病率は健診受診者の11%~17%、上腹部症状を訴えて病院を受診した人の45%~53%といわれていますので、決して稀な病気ではありません。
 ディスペプシアとはギリシア語の消化不良を意味する言葉で、これまでは広く様々な腹部症状に対して使用されてきたあいまいな用語ですが、今回新に決められた機能性ディスペプシアは、胃・十二指腸の症状に限定することになっています。

【原因】

 ストレスや生活習慣の乱れによって胃の働きを調節する自律神経のバランスが崩れ、胃の運動機能異常、内臓の知覚過敏を来たして発症する場合が多く、その他に、急性胃腸炎のあと、幼少期や思春期に受けた虐待、遺伝的要因など下記の原因が考えられています。

  • 胃運動機能異常(適応性弛緩不全、排出能低下)
  • 知覚過敏(伸展、酸、温度)
  • ストレス
  • 生活習慣(タバコ、アルコール、不眠、高脂肪食)
  • 急性胃腸炎後
  • 幼少期・思春期の被虐待
  • 遺伝的要因

 胃の中に食物が入ってくると胃内圧を上昇させることなく、胃の上部が拡張して(弛緩して)食物が貯えられます(これを胃の適応性弛緩といいます)。次
いで胃の出口(前庭部)に送られ収縮が起こり、少しずつ十二指腸に送られます。

 機能性ディスペプシアの人はこの胃の上部の弛緩と前庭部の収縮がうまくいかなくなって食物の十二指腸への排出が遅延するため、食後すぐ満腹になったり、胃もたれ、胃が重いなどの症状を起こします。

 また機能性ディスペプシアの人は胃の伸展、酸や温度刺激に対する知覚過敏や、十二指腸への酸や脂肪などの注入による知覚過敏を示す人がみられます。このような人は、みぞおちの痛み、みぞおちの焼けるような感じを訴えます。

 十二指腸の胃酸に対する知覚過敏があると、胃の収縮運動や胃上部の適応性弛緩がうまくいかないといわれています。急性胃腸炎後に機能性ディスペプシアをおこすことが知られていますが、これは十二指腸を中心に慢性炎症が残り、十二指腸の知覚過敏がおこるためと考えられています。

 不安・不快ストレスは胃の適応性弛緩が十分起らず、また知覚過敏も起こします。

 タバコ、アルコール、不眠は機能性ディスペプシアの発症や症状増悪に関与し、高脂肪食は症状を悪化させます。

【症状】

 食後のもたれ感:食べ物がいつまでも胃の中にとどまっているような不快感があり、普通量の食事を摂っても後がつらいと感じる。いつまでもお腹が空かな
いと感じる。

 早期飽満感:食事を開始してすぐに、食べ物で胃がいっぱいになり、それ以上食べられなくなる感じ(普通量の食事が食べられない感じ)。

 みぞおちの痛み:みぞおちに起るつらい不快な痛み。

 みぞおちの灼熱感:みぞおちに起る熱をもったような、焼けるような不快な感じ。

 治療法を決めるにあたって、これらの症状を次のように二つに分けて考えると判りやすいです。胃もたれ、胃が重い、お腹がはる、すぐに満腹になる、食欲不振などの症状は食後愁訴症候群とよばれ、みぞおちの痛み(胃痛)、みぞおちの焼けるような感じなどは心窩部痛症候群とよばれます。

 しかし実際には、症状が重なりあっていることもしばしばです。

 また時間とともに症状が変化することもあります。たとえば最初はみぞおちの痛み、胃もたれ、食欲不振があり、なかでもみぞおちの痛みが最も強く感じていたものが、次の週には、みぞおちの痛みはやわらぎ、胃もたれが強く感じるようになり、食欲もなくなる。しばらくするとみぞおちの灼熱感を強く感じるという具合に症状が変化することもあります。

【診断】

 胃・十二指腸潰瘍や、ヘリコバクター・ピロリ菌感染胃炎、急性胃炎、胃がん、逆流性食道炎、などがないかを鑑別する必要があるため上部内視鏡検査が必要です。器質的な病気を認めない場合には、症状とあわせて機能性ディスペプシアの診断を行います。

 器質的な病気がみつかれば、その病気の治療を優先します。

 また必要に応じて、胆石症、慢性膵炎、膵臓がんや他の部位のがんなどを除外するために腹部エコー、血液検査が必要な場合もあります。

【治療】

 タバコやアルコール、不眠、ストレスなどは症状の原因・増悪因子と考えられますので、禁煙、節酒、規則的な生活、運動など生活習慣の是正が基本といえま
す。

 脂肪はしばしば症状を悪化させますので、低脂肪食に切り換えることが望ましいです。

 心理社会的因子の関与が疑われる場合は専門的な心理療法が必要です。

薬物治療

 胃もたれや、膨満感などの食後愁訴症候群には消化管運動機能改善薬が、胃の痛みやみぞおちの焼けるような感じなどの心窩部痛症候群には胃酸分泌抑制薬が用いられます。必要に応じて、抗うつ薬・抗不安薬、漢方薬などが使用されます(図6)。

 消化管運動機能改善薬には、機能性ディスペプシアに唯一適応のあるアコファイド(アコチアミド塩酸塩水和物)があります。アコファイドは胃の拡張能(適応性弛緩)と排出能の両方に効果が確認された薬剤です。

 その他従来からある消化管運動機能改善薬の、プリンペラン(メトクロプラミド)、ナウゼリン(ドンペリドン)、ガナトン(イトプリド)、ガスモチン(モサプリド)なども使用されます。

 胃酸分泌抑制薬には、PPI(プロトンポンプ阻害薬)やH2受容体拮抗薬が用いられます。

 ストレスなどによって、うつ症状や不安症状も見られる場合も少なからず見られますが、その様な場合は抗うつ薬や抗不安薬を用います。

 漢方薬の、六君子湯、半夏瀉心湯、安中散、半夏厚朴湯なども有用な治療薬です。

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