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ピロリ菌

 ヘリコバクター・ピロリ菌が1983年オーストラリアのウォレンとマーシャルによって発見され、胃炎、胃潰瘍、胃がんなど、殆どの胃の病気の原因であることが判明しました。

治療法も確立され、わが国でも2000年11月に胃潰瘍、十二指腸潰瘍に対して保険治療が可能になり、2013年2月には胃がん予防を目的として胃炎にまで適応が拡大され、既に多くの人にピロリ菌退治(除菌)が行われて来ました。しかし多くの胃炎が無症状のこともあって、まだ治療をうけていらっしゃらない方もみられます。

【ヘリコバクター・ピロリ菌とは】

(写真1)

 ヒトなどの胃に生息するらせん型のグラム陰性微好気性細菌。菌の両端に4~8本の鞭毛(べんもう)を持ち、この鞭毛の回転運動によって粘液中を遊泳して移動することが可能です(写真1)。

酸性環境以外では球菌様の形態に変化(Coccoid form)しており、この形態では増殖することが出来ません。胃の内部は胃液に含まれる塩酸によって強酸性であるため従来は細菌が生息出来ないと考えられていましたが、ピロリ菌はウレアーゼと呼ばれる酵素を産生しており、この酵素で胃粘液中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、生じたアンモニアで局所的に胃液を中和することによって胃へ定着(感染)しています。

 ピロリ菌には毒性の強い強毒株(VacAやCagAと呼ばれる毒素を持つ)とこれらを持たない弱毒株があり、強毒株が潰瘍やがんの原因になると言われています。

 ピロリ菌は経口感染(口-口感染、糞-口感染)すると考えられています。

 ヒトでの感染は免疫系が十分完成していない5歳未満までに起り、大人になっての感染は稀とされています。ヒト以外にもサル、ネコ、ブタ、イヌの胃内にも感染しています。

 ピロリ菌が慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がん、MALTリンパ腫などの原因であることが明らかになり、ピロリ菌を発見(1983年)したロビン・ウォーレンとバリー・マーシャルは2005年ノーベル賞を受賞しました

【胃の病気の原因の多くはピロリ菌】

(図1)

 ピロリ菌に感染するとほぼ100%慢性胃炎になります。感染は胃の出口(幽門)から始まり加齢と共に徐々に胃の入口(噴門)方向に向かって萎縮が進行していきます。萎縮性胃炎の進行した状態が腸上皮化生で、その一部から胃がんが発生します。従って胃粘膜の萎縮が進行するほど(年をとるほど)胃がんが発生しやすくなります。

 胃がんの99%以上はピロリ菌感染と関係していると言われています。

 ピロリ菌陽性者では、陰性者と比較して胃がんの発生リスクは5倍になります。胃の萎縮の程度が進むと胃がん発症リスクも上昇し、ピロリ菌陽性でかつ萎縮性胃炎のあるグループでは、陰性で萎縮なしのグループと比較して胃がん発生のリスクは10倍といわれています。しかしピロリ菌に感染している人がみんな胃がんになるわけではありません。

 胃MALTリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫などの発生にもピロリ菌が関係しています。また慢性胃炎の経過中にストレスなどによる胃潰瘍、十二指腸潰瘍の発症にも関係しています。胃過形成性ポリープもピロリ菌感染と関係があります。

 また特発性血小板減少性紫斑病、小児の鉄欠乏性貧血、慢性蕁麻疹、ビタミンB12欠乏症などの胃外性疾患の原因の一部になっている可能性もあります(図1)。

【ピロリ菌感染が疑われる人】

わが国では衛生環境が改善されて、若い人のピロリ菌感染率は減少し、10歳台では2%、20歳台で10%、40歳台の感染率も20%まで減少しています。しかし衛生環境の悪い時代に幼少期を過ごした70歳台では今も50~60%と高い感染率を有しています。

 慢性胃炎(特に若い人で見られる鳥肌胃炎*)、胃潰瘍・十二指腸潰瘍(瘢痕、既往歴も含む)、胃過形成性ポリープなどと診断された人。胃がんの治療後の人(内視鏡治療も含む)、家族に上記疾患のある人は幼児期に家族内でピロリ菌感染が起った可能性があります。是非ピロリ菌の検査をお受け下さい。

*鳥肌胃炎

 若い人の中に比較的稀ですが、内視鏡検査であたかも皮膚に見られる鳥肌に似た胃粘膜を認めることがあります。胃粘膜に均一な結節状隆起が密集しており「鳥肌胃炎」と呼ばれます(写真2)。

 全例ピロリ菌陽性で、20歳代、30歳代の女性に多く、胃の痛みや不快感を有することが多く、胃がんの合併率が高く(ピロリ菌陰性の人に比べると、胃がん危険率は64.2倍)、除菌する必要があります。除菌すると鳥肌胃炎も消退します。若い人でも注意する必要のある胃炎です。

【ピロリ菌検査】

(表1)

 ピロリ菌感染の診断法には内視鏡を使って検査する方法と、内視鏡を使わない方法があります(表1)。当院で採用している検査法について概略をご説明いたします。

尿素呼気試験:薬を飲んで呼気を調べる方法で、結果がすぐに分かります。ピロリ菌の除菌判定にも用いられます。

血中抗体検査:ピロリ菌感染のスクリーニングに用いられます。ただし抗体検査は現在の感染だけでなく過去の感染(ピロリ菌除菌後も含む)でも陽性になることがあります。

胃がんハイリスク検診・ABC検診:胃炎の程度を判定する血清ペプシノゲン値と血清ピロリ菌抗体の組み合わせにより胃がん発症の危険度を判定するABC検診が企業の健診や自治体の胃がん検診に取り入れられています。

A群(ピロリ菌もいない、胃炎もない状態)以外のB、C、(D)群(D群:萎縮性胃炎が胃全体に広がってピロリ菌が棲めなくなった胃、胃がんリスク最も高い)は内視鏡検査を受ける必要があります。なお、ピロリ菌を既に除菌した人は誤判定の原因になりますので、ABC検診は受けないで下さい。

【除菌治療】

 ピロリ菌を退治する治療を除菌治療といいます。保険で除菌治療するには、事前に内視鏡かバリウム検査で慢性胃炎の診断とピロリ菌感染が証明されていることが必要です。

 ピロリ菌の除菌治療には、胃酸の分泌を抑制するお薬と2種類の抗生物質の3つのお薬が用いられます。この三種類のお薬を一週間服用することで、約8割の方は除菌に成功すると報告されています。

一次除菌(保険診療)

プロトンポンプ阻害薬 (PPI) + アモキシシリン (AMPC) + クラリスロマイシン (CAM) を1週間投与する 3 剤併用療法を、一次除菌治療といいます。副作用は下痢、軟便、稀に味覚異常や薬疹などです。

薬の内服に関しては旅行や会食などの予定のある時は避け、飲み忘れがなく確実に内服できる1週間を選んでください。

なお、ペニシリンアレルギーのある方はこの方法での治療はできません。

二次除菌(保険診療)

 一次除菌に失敗した場合は、その原因の多くがクラリスロマイシン (CAM)という抗生物質の耐性菌による場合が殆どなので、それをフラジール(MNZ)という薬剤に変更したレジメを使います。

 この治療法まで保険治療が認められ、除菌失敗例の90%以上が除菌されます。

 胃がん予防効果は高齢者でも認められていますが、若い時(男性40歳以下、女性50歳以下)に除菌治療するほうが効果は大です。

【必ず除菌判定を】

 除菌治療してもピロリ菌が除菌されたかどうかの判定をしないと意味がありません。除菌判定は薬を飲んですぐの判定では、ピロリ菌が非常に少なくなっていると判定が陰性になることがありますので、4週間以上間隔をあけて判定します。当院では除菌治療開始日から2ヵ月後に除菌判定をしています。

 どうか薬を飲んだだけで除菌されたと自己判断はしないで下さい。除菌判定は治療後日時が経っていてもいつでもできます。

【ピロリ菌除菌の効果】

(写真3)

 ピロリ菌を除菌することによって胃潰瘍、十二指腸潰瘍の再発は極めて稀になります。胃過成性ポリープの70%くらいは消失もしくは縮小します。稀な悪性疾患である胃MALTリンパ腫も60~80%寛解(治癒)します(写真3)。ピロリ菌陽性の特発性血小板減少性紫斑病も除菌によって約半数で血小板の増加が認められます。

(表2)

しかし、ピロリ菌がいなくなって胃炎が改善されても、胃がん罹患のリスクが0になるわけではありません。リスクは1/3~2/3に減少するといわれていますが、胃がん発生のリスクは残ります(表2)。

いったんひき起こされた萎縮性胃炎は完全には正常細胞には戻りません。特に除菌前に既に胃炎の進行していた場合(腸上皮化生など)はやはり胃がん発症のリスクは残ります。一般的なことでいえば、若い人より高齢者ほど胃炎が進行していることが多いので、除菌成功しても安心しないで年1回の内視鏡検査はお受け下さい。

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