口臭
口臭の多くは舌苔や歯周病など口腔内に原因があります。
一方で、歯科で異常がない、治療後も改善しない、胃もたれ・便秘・のどのつかえ感などを伴う場合は、消化器や全身の病気が関係していることもあります。
当院では、問診に加え、必要に応じて胃カメラ検査・大腸カメラ検査・腹部エコー検査・血液検査などを組み合わせ、口臭の原因を丁寧に確認します。
口臭とは
口臭とは、口腔内から発生する不快な臭いと定義されます。口臭はどのくらいの人が持っているか(有病率)については、自覚症状がある人もいれば自覚症状がない人もいるため、集計がなかなか難しいのが現状です。
ポーランドの大学生が自覚する口臭の有病率は24%であるという報告や、米国の歯科医が患者の口臭を評価した研究では41%に口臭を認めたと報告されています。多くの国から口臭の有病率について報告されていますが、多くの研究をまとめると口臭患者は3割程度(有病率31.8%程度:本文下文献の2つ目)と考えられています。
口臭の原因
ドライマウス:唾液の分泌が少なくなると、口のなかに残った食べかすを嫌気性菌が分解しやすくなりますし、菌自体を増加させます。
喫煙:タバコの煙が歯肉のプラークにいる微生物バランスを変化させるため、悪臭を産生する嫌気性菌を増加させます。 また、喫煙は唾液の分泌を低下させる作用もあるとされています。
舌苔:舌背につく舌苔は嫌気性菌の貯蔵庫です。舌苔は口臭の最も重要な原因となります。
口腔内口臭のその他の原因:露出した歯髄、高度な虫歯、傷口、矯正器具などがあります。これらは、食物やプラークが溜まる場所となってしまうからです。
口腔以外の疾患:耳鼻咽喉科疾患、呼吸器疾患や消化器疾患、あるいは糖尿病などが原因となることもあります。
口臭の種類
口臭は、生理的口臭、病的口臭、仮性口臭、口臭恐怖症などに分けられます。
生理的口臭とは、口臭の原因となる病気がなく、口腔内の食物残渣が細菌によって分解される過程によって悪臭が発生する場合や唾液が少ない起床直後や空腹時に発生する口臭をいいます。生理的口臭の発生源は、主に舌背の後ろの方とされます。
病的口臭とは、口腔内の病的口臭(口腔内の病気によるもの)と口腔外の病的口臭(鼻腔、副鼻腔、のど(喉頭)、呼吸器(気管、肺)、上部消化管(食道、胃、十二指腸)の病気によるもの)に分類されます。
仮性口臭とは、口臭がないのにもかかわらず、口臭があると勘違いをしてしまっていることをいいます。通常、カウンセリングや簡単なオーラルケアの指導で改善されます。
口臭恐怖症とは、口臭のある証拠がないにもかかわらず、病的口臭や仮性口臭を治療した後でも、患者様が自分自身に口臭があると頑なに信じ続ける状態を指します。
口臭と関係のある病気
口腔内の病気:口臭の80~90%は口腔内に原因があるとされています(本文下文献の3つ目)。とくに歯周病と口臭は直接関係があります。歯周病状態以外にも、治療されていないむし歯の病巣に食べかすや歯垢がたまり口臭の原因となります。そのため、まずは歯科で口腔内の異常がないか確認することが大切です。
そのうえで、歯科で異常がない、あるいは治療後も口臭が続く場合には、消化器や呼吸器、全身疾患の評価を検討します。
食道の病気:食道がんや食道アカラシアなど、食べ物の通過を妨げる病気は口臭の原因となります。
胃の病気:
ヘリコバクター・ピロリ菌はウレアーゼと呼ばれる酵素を産生しており、この酵素で胃粘液中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、生じたアンモニアで局所的に胃液を中和することによって胃へ定着(感染)しています。胃酸を中和してしまうため、雑菌を増やすことにつながり匂いのもととなります。さらに、ピロリ菌感染によって引き起こされる萎縮性胃炎や胃潰瘍は胃の消化を悪くするため、食べ物が長時間胃の中に滞留することによって匂いの原因となります。ピロリ菌を除菌することで口臭が改善することが示されています。
胃の働きを調節する自律神経のバランスが崩れ、胃の運動機能異常、内臓の知覚過敏を来たしている病態です。胃の消化機能が低下しているため、食べたものが十二指腸に流れていかない、古い胃粘膜が残存する、十二指腸から胆汁が逆流してしまうため、匂いのもととなる場合があります。
3)胃がん
胃がんは胃の消化機能を低下させ、食べ物の通過自体も阻害してしまいます。そのために口臭の原因となりえます。
大腸の病気
1)大腸がん
便がスムーズに通過しないため、便秘や通過障害により腸内環境が悪化し、口臭につながることがあります。
2)便秘
大腸がんと同様に、便の腸管内の滞留時間が長くなるために、口臭の原因となることがあります。
そのほか、肝臓の病気や糖尿病、肺などの呼吸器の病気も口臭の原因となります。
口臭の検査と治療
口臭の原因の多くは歯周病など口腔内の病気が関連しています。歯科を受診されて、口腔内の病気がないと言われた場合や治療を完了しても口臭が継続する場合には、消化器疾患や呼吸器疾患などがないか検査を行うことが大切です。
ここでは消化器疾患の検査と治療をご紹介します。
胃症状などで上部内視鏡検査を行った際に、胃に萎縮性胃炎を認めた場合には、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染している可能性があります。感染が疑われた場合には、下記の方法などで検査を行います。除菌することで口臭が改善することが示唆されています。
尿素呼気試験:薬を飲んで呼気を調べる方法で、結果がすぐに分かり精度が高い検査法です。ピロリ菌の除菌判定にも用いられます。
血中抗体検査:ピロリ菌感染のスクリーニングに用いられます。ただし抗体検査は現在の感染だけでなく過去の感染(ピロリ菌除菌後も含む)でも陽性になることがあります。
便中抗原検査:便中H.pylori抗原を測定する検査法です。尿素呼気試験とならび精度の高い検査法です。
また、健診や人間ドックで胃がんハイリスク検診・ABC検診が行われることもあります。これは胃炎の程度を判定する血清ペプシノゲン値と血清ピロリ菌抗体の組み合わせにより胃がん発症の危険度を判定するABC検診が企業の健診や自治体の胃がん検診に取り入れられています。
ピロリ菌の除菌治療には、胃酸の分泌を抑制するお薬と2種類の抗生物質の3つのお薬が用いられます。この三種類のお薬を一週間服用することで、約8割の方は除菌に成功すると報告されていますが、治療法や耐性菌の状況により異なりますので主治医にご相談ください。
上部内視鏡検査(胃カメラ)で胃の器質的疾患がないことを確認する必要があります。近年、機能性ディスペプシアに効果のある処方薬が開発されています。
3)胃がん
上部内視鏡検査(胃カメラ)が有用です。胃がんが疑われた場合には生検とよばれる細胞の検査を行って確定診断をおこないます。ただし、早期胃がんで不用意に生検をしてしまうとその後の内視鏡治療が困難となる場合もあります。専門医・指導医による正確な対応が必要です。
4)大腸がん・大腸ポリープ
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)が有用です。治療が可能な大腸ポリープは診断のみならず、同日に治療まで行います。内視鏡治療が困難な大腸がんの場合には生検とよばれる細胞の検査を行って確定診断をおこないます。
5)便秘
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)で大腸に大腸がんや大腸ポリープなどの器質的疾患がないことを確認することが大切です。
6)肝硬変などの肝疾患
採血や腹部超音波検査(腹部エコー)などで診断を行います。
こんな場合は消化器内科にご相談ください
次のような場合は、歯科だけでなく消化器内科での評価もご検討ください。
・歯科で異常なし、または治療後も口臭が続く
・胃もたれ、胸やけ、吐き気、げっぷ、のどのつかえ感がある
・便秘、腹部膨満感、おならのにおい、血便、便潜血陽性がある
・食欲低下、体重減少、貧血を指摘された
・口臭に加えて糖尿病、肝疾患、呼吸器疾患などの持病がある
当院で行う口臭診察
歯科で口腔内の疾患がないこと、あるいは口腔内の疾患の治療を完了しても口臭がある方は消化器疾患が口臭の原因となっている場合があります。
口臭以外の症状がないか、持病がないか、消化器疾患のリスクがないかなど丁寧に問診や触診などを行ったうえで、患者さまにご説明のうえ必要な検査をすすめてまいります。口臭の原因となる消化器疾患の診察のために、採血、上部内視鏡検査(胃カメラ)、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)、または腹部超音波検査(腹部エコー)といった検査などから必要に応じた検査をご提案いたします。口臭で悩まれている方はお気軽にご相談ください。
口臭で受診した場合の診療の流れ
- 口臭の経過、食事、喫煙、服薬、胃腸症状、便通、既往歴を詳しくうかがいます。
- 歯科受診歴や口腔内トラブルの有無を確認します。
- 必要に応じて、採血、ピロリ菌検査、胃カメラ検査、大腸カメラ検査、腹部エコー検査などをご提案します。
- 検査結果に応じて、ピロリ菌除菌、便秘治療、消化器疾患の精査・治療につなげます。
次のような症状がある場合は早めに受診してください
口臭に加えて、次のような症状がある場合は早めの受診をおすすめします。
・食べ物がつかえる
・吐血、黒色便、血便がある
・体重減少が続く
・強い腹痛や嘔吐がある
・強い口渇、多尿、倦怠感がある
・咳、痰、発熱など呼吸器症状がある
参考文献
Clinical Practice Guidelines on the Diagnosis and Treatment of Halitosis
Estimated prevalence of halitosis: a systematic review and meta-regression analysis
Aetiology and associations of halitosis: A systematic review
Periodontal diseases as a source of halitosis: a review of the evidence
Halitosis and Helicobacter pylori infection: A meta-analysis
ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection (2024)
Association Between Halitosis and Gastrointestinal Disorders
日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン2021―機能性ディスペプシア(FD)
Management of functional constipation-associated halitosis
この記事の執筆者
理事長・院長 永田 浩一
略歴
1996年 国立群馬大学医学部医学科卒業
1996年-2001年 東京女子医科大学 附属第二病院(現 足立医療センター) 外科
2001年-2007年 昭和大学 横浜市北部病院 消化器センター
2007年-2011年 ハーバード大学 医学部 放射線科
2011年-2014年 亀田メディカルセンター 消化器科・放射線科 部長
2014年-2015年 NTT東日本伊豆病院 健診センター 特任部長
2015年-2019年 国立がん研究センター 検診研究部 検診評価研究室長
2018年4月-現在 国立がん研究センター 中央病院 検診センター (併任)
2019年4月-現在 福島県立医科福島県立医科大学 消化器内科学講座 特任教授(併任)
資格
消化器内視鏡認定医・専門医・指導医
消化器病専門医・指導医
消化器がん検診総合認定医・消化器がん検診指導医
外科認定医・認定登録医
胃腸科専門医
難病指定医
便通マネージメントドクター
アメリカ消化器内視鏡学会(American Society for Gastrointestinal Endoscopy) 国際会員
アメリカ消化器病学会(American College of Gastroenterology) 国際会員
医学博士(昭和大学):学位論文
Polyethylene glycol solution (PEG) plus contrast-medium vs. PEG alone preparation for CT colonography and conventional colonoscopy in preoperative colorectal cancer staging. Int J Colorectal Dis 2007; 22: 69-76.
学会役員やジャーナルの役職など
Honorary Editors-In-Chief (International Journal of Radiology), Editorial Board Member (World Journal of Gastroenterology, World Journal of Radiology, World Journal of Gastrointestinal Endoscopyなど7英文誌)
日本消化器内視鏡学会 関東支部評議員
消化管先進画像診断研究会(GAIA) 代表世話人
元 日本消化器がん検診学会 代議員
日本消化器がん検診学会 大腸CT検査技師認定委員会 副委員長
日本消化器がん検診学会 教育・研修委員会委員
日本消化器がん検診学会 編集委員会 用語集改訂小委員会委員
日本大腸検査学会 評議員
